【大学中退】「大学を辞める」という選択。舞台女優の夢

課外活動

今回の先輩大図鑑では、2年次に大学を中退し、現在は舞台女優として活躍されている加藤瞳さんにインタビューをしました!

瞳さんは筆者の高校の同級生で、当時から舞台女優を目指しひたむきに努力をする姿勢は印象的でした。高校卒業後は多摩美術大学(以下、多摩美)に通いながら舞台にも出演されていました。

美術大学への入学、そして中退。舞台女優として多くの作品に出演を続ける彼女の決断力や行動力、そのモチベーションは一体どこからきているのか。静かに燃える闘志に迫りました。

▲舞台衣装での一枚

舞台を目指したわけ

ー大学ではどのようなことを学んでいましたか?

大学では演劇舞踊デザイン学科というところに所属していた。演劇やダンスの基礎、舞台美術や制作に至るまで学んでいたよ。演者としてだけでなく、裏方とかも学んでたんだ。

 

ー「表現者」の中でも何故舞台女優を目指したのですか?

舞台って、「伝える手段」の一つだと思っているの。

私はもともと小学生のころから戦争関連の勉強に興味があって、本とか映画とかよく見てたの。それから初めて戦争ものの舞台を見たときに、すごく疑似体験をしやすいと思ったんだ。本とか映像よりも記憶として残りやすいなって。だから私は戦争とかを伝える手段の一つとして「舞台」を選んだの。

だから今でも戦争ものや南北問題、学生運動を扱う作品にも出たりしてる。

学生運動の舞台で使った道具

ーでは、舞台女優を目指したいと思うようになったきっかけはありますか? 

高校1年くらいの時には舞台系に進めたらいいなと思っていたかな。専門学校でも大学でも何でもいいから。

そんな中で、野田秀樹さんの『逆鱗』という作品を見たの。その作品は人間魚雷…ってわかる?戦争の時に人を小さな潜水艦みたいなものに乗せて相手の船に突っ込んで爆発する、攻撃の一つ。それを題材に扱っていたの。その舞台はストレート・プレイ(※台詞に音楽などを用いない会話劇、いわゆる一般的な舞台演劇のこと)なんだけど、結構衝撃的だった。

その方の作品は社会風刺のきいたものが多かったし、それを見てからその方の作品が好きになって、その方の授業を受けたいと思うようになったんだ。野田秀樹さんが多摩美の教授だったから、受験を決めたって感じかな。

▲舞台「ひめゆり」

在学中の生活

大学がすごく遠かったの。片道二時間半はかからないくらい。1限が必修の実技の授業だったんだけど、それが8時半に集合しなきゃいけなかったから毎日5時に起きてジャージで登校してたよ。着替える時間がもったいなくて(笑)

タイムスケジュールは、1・2限が実技。3時間ひたすら走るみたいな授業もあった。午後は大体座学だったかな。舞台歴史とか舞台美術とか、心理学とかもとってたよ。

▲学校のスタジオ

大学では授業内で舞台の公演をすることがあったのだけれど、その公演が控えているときはその稽古を夕方から、外部での活動があるときはそっちの稽古にも行ったりしていたよ。

私は客演(※俳優や音楽家などが、自分の所属していない団体に招かれて出演すること)として舞台に出ていたから外部での活動を優先していた時期もあったよ。

 フルで授業を受けると、授業が終わる時間が18時半とかだった。大学の稽古があるときは21時半までは使えたからそれくらいまで残ってるときはあったかな。

大学での舞台公演

「中退」という決断

中退の理由

ー「中退」というのはとても大きな決断だと思いますが、どのような理由があったのでしょうか?

私がやりたかった沖縄戦関係の舞台は、年齢制限があるもの、若いうちしかできないことでもあったの。20代前半しかできない役もあったから、今しかできないその時間を優先したんだよね。

大学に通ってたらもちろん単位は取らなきゃいけないから自分がやりたいことだけやるというわけにもいかないし。

本当に大学で学びたいこと、やりたいことがあったら、それは大人になってからでも行けると思ったんだ。

舞台「氷雪の門」

ー辞めると決めてから行動に移すまで、どれくらいの時間がかかったのですか?

いつからやめようと思ってたかは分からないけど、2~3か月くらいかな。

2年生の5月から外部での稽古が始まって、その期間はほとんど大学には行けなかったの。本番が7月の前半にあったんだけど、その翌日に大学でも本番があったの。大学ではもちろん全員参加だからやらないといけないんだけど、とにかく大学のほうに行けなさ過ぎて、本番の前日に何曲も詰め込まなきゃいけないような状況だった。

その時に、「どっちにも迷惑かけてるそな」と思った。大学内でしか舞台をやっていなくて、そこに全力を注いでいる子がいるから。大学の同級生だけど、その子たちも舞台を作ってる人として本気でやっているわけだから、失礼だなって思ったの。

だからその本番だけやってそのまま辞めたよ。前期いっぱいでやめる形で8月末までで書類の手続きをしたかな。8月はあんまり行ってないけど(笑)

中退の不安

やっぱり「どこかに属してる」っていう安心感がなくなるんだよね。ある意味フリーターみたいになっちゃうわけだし。それも急にね。自分で決めたことだけど、この先何も決まってないわけだから。何年先まで仕事があるとかそういうわけでもないし。

しかもちょうど二十歳になるタイミングでやめたの。だから「未成年じゃない」っていうのと「どこにも属していない」っていうのが一気にきて、やっぱり不安にはなった。

それでも周りの人の意見を聞きながら、辞めるっていう決断をしたかな。親とかも、もちろんそんなに簡単に首を縦に振ったわけじゃないけど、反対せずにいてくれたよ。

あとはやっぱり美大っていうのもあるけど、周りにいる大学生の話が分からなかった(笑)インターンとか、就活とか。結構何言ってるんだろうって思うこともあった。大学を辞めた今でもね、それは。みんなが就活とかに力を注いでいたその時間を私は経験していないし、知らないから。

▲初めてのひめゆりの舞台

大学中退。その後

ー大学を辞めてからはどのような生活を送っていましたか?

辞めた直後は1年に5~6本は舞台に出てたよ。舞台の稽古期間は約2か月だから、ちょうどそれで1年くらい。1つ終わったら新しい稽古するって感じ。

コロナまではありがたいことに結構ずっと仕事があったんだけどね。コロナになってからは何本も中止・延期で減ったね。エンタメ界の中でもクラスターが発生してしまったり、実際自分の周りでもクラスターが起こってしまっていたから。

今は普通にバイトもしてるし、新体操教室でアシスタントコーチはしてるよ。

 

ー新体操教室は大変だと聞きました。

仕事以外の時間もやらなきゃいけないことが多くてね、振り付け作ったり。でもそれも自分がやりたい舞台の仕事に活きないことでもないからさ。

元々小さい子供が苦手なんだけど…(笑)。でも私が舞台を通してやりたいことは、「本を読んでもわからないよな」みたいな子供にも何か伝えられたらいいな思って。私自身が疑似体験に近いと思ったことを、教育と関連して演劇出来たらいいなって。だから子供が苦手とか言ってられないと思ってね(笑)

今は、バイトしながらお仕事やってレッスン行ってって感じかな。

 

ー大学辞めたことを後悔することなどはないのでしょうか?

たまに思うんだよね。「大学辞めなければよかったなー」って。今みたいなこういうコロナの時期になっちゃうとさ、劇団に所属せずフリーで仕事してるとなかなか仕事も来なくて。

でも私の大学時代の同期とかは卒業制作とかですごく忙しそうにしていて、そういうのは見ていて「羨ましいな」とたまに思う。でもそれは、今この時期だから思うことかなとも思うから後悔はしてないよ。たまに、「いいなぁ、楽しそうだなぁ」とは思うけどね。本気で後悔したりはしてない。

 

ーコロナ禍で、休学や退学を考える学生も少なくないはず。そういう選択肢についてどう思いますか?

大学を途中でやめるなんて意味ないじゃんて思う人もいるかもしれないけど、私は約2年、行ったことは意味があるかなって思ってる。美大とはいえ、サークルとかのいわゆる「大学生感」っていうのはやっぱりあるから。

そういうのも今思えば楽しかったし、何事もさ、全然知らないよりは知ってたほうがいいと思って。

もちろん、「コロナだから退学していい」なんてこと言えないけど、周りにもいるよ、コロナで休学した子。私は、その休学の半年間で大学に行っていたらできなかったことができる半年になるんだったら、すごく意味のあることだと思うし。コロナだけど、有意義な半年になるんじゃないかなと思う。

意思の強さ、その理由

ー舞台に関する資格なども取っていましたよね。常に挑戦を続けるモチベーションは、どこから沸くのでしょうか。

単純に好きだからかな。好きじゃないとできないけど、でもやっぱり自分ができてないことを周りができてたり、企画が動いてたりしたら、単純に羨ましいなと思って嫉妬するし、そこに自分もいきたいって思う。

 

ー進学校に通っていたけれど、大学受験は美大1校のみの挑戦。周りに左右されない意思の強さはどこからくるのでしょうか。

でも受験の時は「落ちたら私はどうするんだろう」って思ってたよ(笑)美大の入試は実技もあって、勉強すればできるわけじゃないから。

周りに左右されないといっても、すぐに「さあやろう!」というわけではないし、たくさん調べたりして意外と慎重に動くことが多いよ。ある程度まで調べたり、自分がこうしようと思ってることに近づいたりして「決断!」ってなったらもう一気にやる。そうしないといつまでもできないから。

 

ーそれは、大きな夢があるからでしょうか。

別にまだ大きく声に出して言える何かがあるわけでもないんだよ。最終的な「演劇と教育とで語り継ぐ」っていう目標に近づけるような経験をちょっとずつしたいと思ってるけど。だからといって、そのために計画立てて動いけてるわけではないの。

でもふわっとした思いだったとしてもとりあえず進まないと。何がふわっとしてるかもわからないから。だからとりあえず今は、お仕事でも何でも来るもの拒まず、できることをやってる。

そうやって目の前のことをやってたら、自然と自分のやりたいことに近づいてたりするの。自分がやってることを見てくれた人が、声をかけてくれたりね。

 

ー決断をするときに大切にしていることはありますか。

例えば大学を辞めるとか、舞台に出るとか、そういう大きな決断をするときは、その先を想像する。それを自分の中できちんと言葉で説明できるかとかは大事にしている。

唐突な「やりたい!やろう!」みたいな感じでは決めてないかな。「こうしたらこの道の可能性もあるし、もしかしたらこっちの道の可能性も出るかもしれないし」って。何個か自分を納得させられる説明が出来たらすぐ決めちゃうと思う。

舞台女優として

ー毎回舞台に出演するときは熱心に勉強をしている印象があります。何か意識していることはあるのでしょうか。

何か人に伝える側の人間としては、勉強はしなきゃいけないことだと思ってる。何も知らない人たちがやっているものを私は見たくないと思っちゃうから。

特に史実を扱っていたりするとね。自分にも、見てくれる人にも、元になったものにも全てに失礼がないようにしたいと思っているよ。行けるところにはできるだけ足を運びたいし。今はなかなか行けないけどね…。

今はあまり歴史の資料館みたいなところもなくて。だからこそ現地に行かないと知りたいこと知れないんだよね。ネットで調べてもこんなにも出てこないんだなって衝撃すぎるくらい載ってなくて。

そういうのに興味を持つ人があんまりいないんだなって思う。だからこそ、舞台でやるってなったら少なからず記憶に残るとは思うから、勉強はしっかりするようにしてる。

沖縄を訪れる瞳さん

ー最後に、コロナ禍における生活で思うことを話してくれました。

コロナでこういう状況になって、やってる側も見ている側も少なからず「エンタメの必要性」を感じた人もいると思うんだよね。必要不可欠とか不要不急とかいう言葉もよく耳にしたけど。

自分にとっての不要不急と相手にとっての不要不急は全然違うし、その中でエンタメとかになっちゃうとやっぱり娯楽ってとらえる人が多いんだよね。私は仕事でやってるけど、「舞台なんか」って言われることもあったりして。

 

舞台に限ってじゃなくても、普通の大学生活でもずっとやってきたサークルの大会とか文化祭とか。そういうのも「なんで?」って言われることが結構多かったと思う。こんなご時世にわざわざやる必要ないだろう、って。やっぱりその時期はみんなつらいし…。自分のやっていることを辞めてそのままフェードアウトもできるし、しちゃう人もいると思う。「みんなにとっての必要なこと」ってもちろんあるから、それを優先して。

▲コロナ禍の客席

でも私は、舞台のこととかエンタメを不要だとは思ってない。私のように中学生とか高校生の時に舞台を見て、仕事にしたいと思う人もいると思うし、見てただ楽しかったで終わる人ももちろんいるけど、それだけじゃなくて自分の将来に関係してくる人もいると思うから。

その何人かのためにでもやることはやりたいと思う。このコロナの状況とかも改善して、何かやりたいことができればいいなとは思うけど、難しいよね。まだ誰にもわからないもん。

コロナ禍の稽古

簡単ではない決断をしてきた瞳さん。そんな彼女を私は「強い人」だと思っていました。しかし今回のインタビューを通し、強く見えるその心にも不安、考えがあり、それを凌駕する行動があることを知りました。

先の見えない未来に不安を感じるのは当然のことです。しかしその中で何を考え、どう動くのか。よりよい「今」が未来を作ることを、教えてくれた気がします。

大きな夢に心を動かされた人も、「自分なんか」と思った人も、とりあえず「目の前のことを」全力でやってみませんか。その行動こそ、なにかの「きっかけ」になるかもしれません。

コメント

  1. さかな より:

    大学をやめてもやめなくても、その後どうするかは自分次第ですよね
    とても参考になりました
    コロナ禍の活動は大変だと思いますが頑張ってください
    エンターテインメントは日本に無くてはならない文化です

  2. かけ流し より:

    そっかあ〜、瞳ちゃん大学中退していたんですね!
    私は正規に大学に行く事ができず、30歳を過ぎて入学しましたが、卒業のメリットが何もなかったので、中退しました。
    でも、行った甲斐はありました。
    人生は他人と比較するものではないと思います。自分の信じた道を進めば、後悔はありません。何故なら、自分の人生の主人公は瞳ちゃんなのだから…。

  3. 長倉 正和 より:

    大学中退ですか!二股はかけないという大きな決断をしたわけですが、
    これから売れっ子女優さんになれる保証はないですから、リスクはある
    と思いますが、頑張って下さい。又、機会がありましたらミュージカル
    を観に行くこともあると思いますが、大望を胸に抱いて活動してください。

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